ナノポジショニング 超高速AFM

Posted in AFMNanopositioning

Sep 14th 2022

超高速AFM: クイーンズゲイトの持つピエゾ制御の効果実証

ナノポジショニング専門家のクイーンズゲイトは、超高速・超高精度のAFM撮像を実現する技術をご提供します。

 

クイーンズゲイトはイギリスの高精度ナノポジショニング製品を開発・製造しています。直近のイギリス国立物理学研究所(NPL)との共同研究では、次世代原子間力顕微鏡(AFM)や走査型プローブ顕微鏡(SPM)の関係者の注目を集めるであろう実験結果を得ることができました。

今年(2021年)の初めにNPLの研究者が行った一連の性能検証実験により、様々なノウハウを投入したクイーンズゲイトの高速ピエゾステージが、高速AFMでの撮像にどのように役に立つかが明らかになりました。結果は大きな注目に値するもので、これまでより大幅に広い範囲の撮像が容易になり、ナノレベルの分解能で高品質なAFM撮像ができるようになり、更に従来は数時間、場合によっては数日間かかることが当たり前であった撮像時間が、分単位にまで短くなることが確認できたのです。

NPLとクイーンズゲイトは、これまでも何度か共同研究をしてきましたが、今回の実験はMeasurement for Recovery(M4R)というプログラムのためのものでした。M4Rはイギリス政府によって組織され、NPLが中心となり、各種産業がCOVID-19から立ち直るサポートをすることを目的としています。「M4Rは、最先端の研究開発を行うための専門知識や設備を提供し、従来技術で発生していた分析・測定時の課題や問題を一緒に解決していきます。」NPLの測定技術者で今回の検証実験リーダーであるEdward Heaps氏は話します。「究極的にM4Rが成し遂げなければならないことは、このパンデミック終息後のイギリスの各種業界の生産性と競争力向上を促進することです。」

 

妥協を許さないAFMの開発 

Get the picture: NPLでの高速AFM撮像実験で使用されたサンプルのひとつ。このサンプル撮像時のひとつ一つのフレームは、正確に300ナノ毎に撮影されています。

NPLでの実験結果を述べる前に、まずはAFMの基本的な原理を述べることにします。AFMはSPMの改良版とも言えるもので、カンチレバーの先端に、極めて鋭利且つ微小な(大抵はSiかSi3N4製の)突起が取り付けられています。この突起が1から20ナノミクロンという分解能(この分解能は突起の鋭利度による)で、観察面の描画をするよう動作します。具体的には、この突起が、突起自身と観察面との間に働く原子レベルでの力を検知すると、検知した力がカンチレバーの変異としてシステムに伝わります。この原理を用いて観察物全体をスキャンすれば、観察物の描画、あるいは測定情報となります。更にAFMでは、観察面の機械的情報(硬度、摩擦度、粘度など)と共に、化学的、電気的、磁性的情報をナノレベルで視覚化することができます。

現実では長所ばかりではありません。AFM、その他SPMの原理に起因する困難な課題があります。観察時間が非常に長くかかり、生産性そのものが低いですし、観察時間が長くなれば、温度も変動し厄介なドリフトが発生します。比較的広めの観察範囲を高分解能で観察する場合には、何時間も、時には何日もの時間がかかっているのが実情です。「これまで高速AFMでの観察では、観察時間短縮とより広範囲の観察を両立することはできないと言われてきました。」とHeaps氏は説明します。「研究者にとっては、より広い範囲を観察できることと観察速度を速くすることを両立できれば、生産性を向上させることができ、より多くの研究発表や論文発表につながっていくことでしょう。産業分野の研究開発者であっても、例えば、AFMが品質管理や画像処理に使われているであろう半導体IC、量子ナノデバイス、高度な光学部品などの分野においては、同様な生産性向上が見られるようになるのではないでしょうか。」

クイーンズゲイトの開発チームにとっては、NPLとの共同作業は、自分達が従来の高速AFMでの課題解決(生産性向上)につながるであろうと考えていた、制御ノウハウの効果に対する、言わば外部審査を受けることを意味します。クイーンズゲイトのチーフソフトウェアエンジニアであるGraham Bartlettは言います。「M4Rプロジェクトは、我々の技術がAFMにいかに役に立つかを厳しく評価する機会を与えてくれました。何故なら高品質でなければならないAFMでの画像の質は、極めて緻密なピエゾ動作速度の制御と共に、動作の直進性と速度の一定性をも維持しなければ得られないからです。」加えて言うならば、緻密なピエゾ動作速度制御を述べる前に、取得した画像の質は、AFM観察に使われるステージが、どれだけ速く正確に動作するかを表す目に見える指標となるからです。Bartlettは続けます。「AFMでマイクロ秒毎に連続して画像取得をする場合、ステージがマイクロ秒の高速で移動することと共に、その動作速度も一定でなければ、取得した画像の間隔は一定にはなりません。ステージの動作速度が一定であると共に真にまっすぐに進まなければ、取得画像の間隔が狂い、ひずんで歪んだ画像になってしまうでしょう。」

 

動作速度は制御されなければ意味がない

この実験以前にも、Heaps氏には既にクイーンズゲイト製品を、NPLが英国ブリストル大学と共同開発した測定用高速AFMに取り付けて使用した経験がありました。今回使用したAFMには、動作範囲5 x 5ミクロンのXYステージが使われていましたが、NPLはこれをクイーンズゲイト製のNPS-XY-100(動作範囲100 x 100ミクロン)と、クローズドループでの位置制御機能と速度制御の機能を持つNPC-D-6330コントローラに置き換えました。最初のテストでは、0.5mm/秒から4㎜/秒までの速度範囲で、速度制御は非常に正確であることを確認でき、これがラスタースキャン時の測定分解能を更に細かくできることにつながることが期待できるようになりました。次いで様々な動作での効果を評価していくこととしました。

高速AFMで関連する課題としては、加減速を早くすればするほど、ラスターの始点と終点では機械的共振を誘発しやすくなります。この現象は一般的に“鳴き”と呼ばれ、スキャン速度が速くなるほど増幅される傾向があります。またこの現象が発生すると、正確に画像取得ができる範囲は小さくなってしまいます。クイーンズゲイトのコントローラはこれまで述べた速度制御ノウハウ以外にも、ノッチフィルターなど“鳴き”を大幅に抑制する機能を搭載しています。またこのコントローラには直線的だけでなく、製品を波型に動かす波形を送る機能がありますが、この時の加減速はS字を描くようにゆっくり加速しゆっくり減速を行うので、これも共振の抑制に役立っています。

高速AFM画像取得の課題詳細は、今回のNPLでの綿密な実験で明らかになりました。より広い動作範囲を持ちながらも、高速での撮像が可能なステージ採用によって、画像取得作業はとても楽なものになりました。当初使用していた5 x 5ミクロンのピエゾステージでは、NPLの高速AFMで広範囲の観察を行うには、手動でこのステージの位置をずらし、更に撮像を行い、後から張り合わせをしなければなりませんでした。この作業は非常に手間がかかり、長い時間がかかることになります。対照的にこのNPLでの検証が示すものは、クイーンズゲイトの100 x 100ミクロンのステージを使用すれば、1回で必要範囲の撮像を全て済ますことができるでしょうし、緻密な速度制御は総合的な高速撮像に繋がり、全体的な作業時間を大幅に削減することとなります。より大きな撮像範囲が必要となる場合でも、手動でステージを動かす回数も大幅に少なくなります。

このM4Rで明らかになった事実を、クイーンズゲイトと親会社であるプライアー・サイエンティフィックは、SPMやAFMを使用するOEMパートナーやその他のお客様と共有する機会を持ちたいと考えています。「我々のピエゾステージ、コントローラ、制御アルゴリズムには、AFM分野により高速な画像取得、生産性向上、画像品質の改善などをご提供できる高い可能性があることがわかってきました。おそらくこれらの製品は、コンフォーカルで3次元ライブセルの撮像など、他の先端分野でもお役に立つことがあるのではないでしょうか。」